FIND OUT



 ふと、思ったことがある。
 奈千佳はどうやらホームシックらしい。
 いや俺が言うのもなんだが、部屋に閉じこもる時間が気持ち長くなった気がした。

「柊くん?聞いてる?」
「え?あ。志乃ごめん」
「んもう」

 そういえば、今日はたまたま志乃が午前講義ということで、珍しく二人で食材を買い込んで(本日はてんぷらだそうだ)帰宅途中だった……

「何考えてたの?」
「あー……奈千佳のこと」
「奈千佳ちゃん?」

 不思議そうな顔をして志乃が俺の顔を覗き込む。この絶妙な上目遣いは一体どこで学ぶんだろうか。
 そうこうしている間にマンションが見えてきた。

「あ」
「どうした?」

 志乃が指差した先には気持ち小型のどこにでもありそうな車。丁度マンションの玄関口のところに邪魔に鳴らないように配慮されて停められている。

「あれがどうかしたのか?」
「あれ。完全エコカー。税金安くなるんだって。この間テレビでみたの」

 言われて見れば、ここらへんでは見ない車だった。
 どこの物好きが、こんなまだ高くつく車に乗ってるんだか。嫌いじゃないがな。そういうのは。

「ねえ。あれ。奈千佳ちゃんじゃない?」
「奈千佳?」

 俺は思わず目を細めてしまう。近視特有の癖ってやつだ。ちなみに志乃はコンタクトなので当然俺より視力はいい。

「柊くん。目怖い」
「あ?あ。ごめん」
「……ごめんですんだら警察はいらないんだよ?」
「う……」
「ほら。いこ」

 エントランスに入っていくと見慣れた女n……女性と見知らぬ男性がのほほんと別れの会話をしていた。

「では、これで」
「ありがとうございましたー」

 声を掛けようか二の足を踏んでいると、奈千佳と目がかち合ってしまった。

「あ」

 あ。じゃない。あ。じゃ。

「……浜中さん?どうされたんですか?」

 ……いや、あんた誰だよ。

「……」

 奈千佳が沈黙してしまい、志乃もどうしたらいいのかわからない様だった。もちろん彼も。

「……浜中さん。こちらの方は?」

 膠着状態は好きじゃない。とりあえず下の名前で呼ぶのも奈千佳を困らせるような気がして、彼と同じ様に呼んだんだが。

「えっとこちらは……」
「吉田と申します」

 随分落ち着いた人だなというのが印象的だった。

「初めまして加納です。失礼ですが……どういった御関係で?」
「会社の上司です」

 なんで奈千佳が即答してんだ?

「無断欠勤したから心配して来てくださったんですよね?吉田さん?」

 い、威圧感たっぷりすぎないか?っていうか志乃いつの間にかポスト見に行っちゃってるし。

「……えっと、もう戻らなければなので失礼します」

 あ、吉田さん逃げた。

「……誰なんだよ吉田さん」
「あははははは。ひぃ。どんまい」

 誤魔化すような嘘くさい笑顔でばしばしと俺の背中をたたく奈千佳は、志乃をポストの前に見つけると逃げた。
 
「あ。終わった?」
「うん。わー今日はなに?」
「えっと。てんぷら」

 まあ。いいか。
 言いたくなれば言ってくれるだろう。それまではこうやって笑っていてくれればいい。

 家に帰り、夜人が帰ってくると奈千佳はいつのまに運び込んだんだか知らないがいくつものぬいぐるみで夜人を埋めていた。もちろん俺はそのようすをカメラでばしばしと撮っていた。まあ食事の後に俺も埋められたんだが。
 
 志乃が家へ帰り、夜人が部屋へこもったのを見計らって、俺はソファで毛布(いつのまにか出現)にくるまりながらゲームをする奈千佳に。昼間のちょっとした疑問をぶつけてみた。

「なあ、奈千佳」
「んー?」
「会社の上司が来てるのに仕事とかはいいのか?」
「…………」
「なんで黙るんだよ」

 ってか目泳いでますが?奈千佳サン?

「……世の中には療養と言う素晴らしい言葉があるんだいっ!」
「おまえのどこg……あーあーあーもう。逃げられたよ。おい」

 あっと言うまに奈千佳は自分の部屋へと引っ込んでしまった。俺だけが一人、残されて寂しい人間になっている。
 このまま眠るのもあれなので翌週提出のレポートでも徹夜で仕上げよう。うん。



 俺はどうして

 いつも何かが抜けているんだろうか

 もっとよく

 奈千佳の性格を見越すべきだったのだ


 



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