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 コンコン

「夜人か?」

 とっくに夜は更けて、奈千佳さんも眠りについただろう深夜。オレは柊の部屋の扉を叩いた。

 ガチャリ

「なんだよ、んな泣きそうな困った顔して」
「……スピーカー」
「は?」
「スピーカーが壊れた」

 さっきまで大音量でいつものように音楽を聞いていたらぷつりと音が途絶えてそれ以来音が鳴らなくなってしまった。三十分以上格闘した末の結論。
 助けろ柊。

「すっげーいまのってんですけど」

 柊の部屋には本棚、ベット、パソコンとデスク。それに、スピーカー増設済みのコンポがある。
 パソコンの画面にはいくつものウィンドウが開かれ、サイトやらワードやらメモ帳やらがひしめき合っているとこをみると、またなにか小説でも書いていたんだろう。

「直してくれ」
「面倒だ」

 柊はパソコンのキーボードをかたかたと打ち続けながら即答。
 オレに寝るなとでも言いたいのか。

「必要なんだよ」
「じゃあここで聞けばいいだろ」
「……いや、寝るんですが」
「寝りゃ良いじゃん」

 実はオレの部屋が一番でかいのには訳がある。
 オレの部屋にはオレと柊の両親からのプレゼントとかいう名目でここに住み始めた日に送られてきたキングサイズのベットがある。全くもって意味不明なプレゼントではあったが柊と二人で寝転ぶには丁度よく、奈千佳さんがくる前はよく一緒に眠る事も少なくなかった。

「じゃあそうする」
「ああ」

 一体何を打ってるんだか。覗いて見ようにも文章ファイルには予めロックがかかっていてパスワードを入れなければ見ることが出来ない。
 読んでみたいんだけどなぁ。
 なんてことを考えながら自分の部屋へ戻り何枚かのMDを選び柊の部屋へ戻った。

「……」

 カタカタという音は相変わらず規則正しくなり続けていた。止めるの気が引けたのでオレは勝手にコンポのスイッチを入れMDをかけ始めた。
 最小音量で流れはじめるアップテンポの音楽。小さいし。よくこんなんで聞こえるもんだ。

「あんまり大きくすんなよ。夜中なんだから」
「わかってるよ」

 少しずつ音量を大きくしていく。さすがにスピーカーが増設されていることもあり、一つ大きくするだけで音はがくんと大きくなった。
 ああ。落ち着く。
 カタカタやる音はもう音楽にかき消されてしまった。
 柊の方を見ると、それとなくリズムを取っているので聞いているんだろう。

「じゃあ、寝る」
「おやすみ」

 そういえば、柊もここで寝るんだろうか?
 大きさ的にはセミダブルで二人で寝るには広さも別に問題ない。
 問題なのは、オレも柊も寝起きが最悪だということだ。明日(正確には今日)の朝、起きれるのかどうか定かではない。……まあ。どんまい★

 MDを一本聞き終わることも無く、オレは眠りに落ちた。
 それからどれくらい立ったのかはわからない。
 
 どさり

 柊が崩れるようにベットへと倒れ込んできた。
 その衝動でオレは目を覚まし、眼前に飛び込んできた柊の今にも眠らんとする目に驚いた。

「柊」
「……いつもの事だ」

 ここまで近くなければ聞こえないんじゃないかと疑うくらい小さな声で柊は答えた。
 オレは被っていた布団の中に柊を入れた。

「夜人。腕かして」

 そういうのが早いか、行動が早かったのか。
 柊はずむむと布団に潜りオレのちょうど心臓の辺りに頭を寄せ、腕を背中に回させた。

「起きて消えてたら殴る」
「消えないよ」

 すっかり目が覚めてしまったので、自由な方の手で柊の髪を梳く。絡めては解き、解いては絡め。決してすべてから離れる事無く。

「夜人」
「あ?」
「好きだ」

 は?

「奈千佳も好きだ。志乃も好きだ」
「それがどうしたんだよ」

 オレが髪をもてあそぶのに合わせてねだる様に頬をオレの胸に摺り寄せながら呟くように柊は語る。

「夢を見る。俺だけが取り残されて誰もいなくなる夢」

 いつのまにか背中に回されていた手は微かに震えていて、そんな柊にかける言葉は見つからず。

「起きて奈千佳の寝顔見て、夜人起こして、志乃が来て、それがどんなに安心するか」

 顔を見なくたって、どんな表情なのかはわかった。細く消えそうな微笑をしてるに違いない。
 宵闇はただ暗く、風の音も無く、聞こえるのは柊の声と呼吸だけだった。

「ここのところずっとだ。始まりは違うのに結末はいつも同じ」

 知らなかった。そんなこと。

「柊」
「怖いんだ」
「柊」
「目が覚めて誰も居なかったら?」
「柊。顔上げろ」

 うつむく様に目線を下げると。顔を上げた柊の目が光も無いのに光っているのが目に入った。
 額が合わさりそうなこの距離は、なにかの一線のように保たれる。

「大丈夫だよ」

 小さく、首を振る柊。

「大丈夫だよ」

 それでも、首を振られても。

「大丈夫だから」

 オレはただ、諭すように言いつづけた。
 柊。オレだって今を失うのは怖い。怖くても信じるしかないんだよ。大丈夫だ、って。続くんだ、って。

「本当……か?」

 幾度めだったろうか。柊の震えは収まった。

「ああ」
「……このまま眠っていいか?」

 あとどれだけ夜が残っているのかわからないが、オレがどうしてこんなにも必要とされるのかわからないが、それでも柊が望むのなら。

「ああ」

 音がなければ狂ってしまうはずなのに、無音のなか、オレはただ無意識に柊の髪を絡め、解き、絡め続けた。

 



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