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「夜人。愛人ひろった」
「は?」
「ほれ」

 こりゃ寝起きみたいだな。目が開ききっていない。

 俺は現在那波夜人との二人暮しをしている普通(自称)な大学生だ。
 両親は海外で事業が成功したとかである日突然『新婚に戻ります☆』とかいう意味不明な書置きと得体の知れない預金通帳や、貸し金庫の鍵やらなんやらが置き去りにされてあっさり行ってしまった。どうやら事業は夜人の両親との共同経営らしく、あいつの場合朝起きたら無理やり立ち退かされて両親の『柊君によろしく★』とかいう書置きを頼りに同日俺の家へ転がり込んできた。
 格段といって金に困るわけも無く、それなりに生活力もついてきているわけで中々悠々自適な生活を送っているわけだ。

 まあ、だからといわれればそれまでの話だが

「夜人なにか飲むか?」
「……オレンジ」
「奈千佳」
「うーろんちゃー」

 なんだか夜人の脳内は混乱しているようだが、俺と生活してるんだからいいかげん慣れていると勝手に仮定してとりあえずリビングへと移動した。

 一応もともと俺の家族が全員住んでいたわけでそれなりに広い。
 3LDKでフローリング。リビングとダイニングは繋がっていて折りたたみ式のソファ(座椅子みたいな)の下に蒼のカーペットが敷いてあるくらいだ。基本的に俺が地べた人間な所為もありテーブルは炬燵にもなるものしか置いていない。無論テレビは大画面。スピーカは勝手に増やしてみた(ざっと五個ばかし)

「柊」
「あ?」

 システムキッチンと呼ばれる使い勝手のいい白を基調としたキッチンで俺は俺用の紅茶をいれはじめた。合間に1リットルのパックオレンジジュースをグラスに注ぎ、烏龍茶の缶を出して二人のところへ運ぶ。

「愛人ってどういうことだ?」
「愛人は愛人だろ」
「……彼女、えーっと」
「奈千佳さんでいいよ」

 ようやっと夜人の脳は回転を始めたらしい。
 それにしても『さん付け』か。俺は呼び捨てなのに。

「えーっと奈千佳さんはまた。なぜこんなんに」
「ちょっと愛人になってみたくて」

 あっさりと即答した奈千佳に夜人は呆気にとられるしかなかったようだ。
 俺は二人の会話に首をはさむのも疲れるので紅茶をわざと深めのカップにいれると読みかけだった雑誌を床から拾い上げ、ソファに片方の膝を曲げてよっかかっていた夜人の膝を造作なく崩して膝の上を確保し、雑誌に目を落とした。

「……。なんで愛人?」
「なんかー楽そうじゃない?」

 顔を見なくたって夜人が困っているのは判った。
 それにしてもこんな不毛な質問を異常な回答で潰すのを傍らによく俺も本をみれるもんだ(苦笑)

「柊。ちなみに奈千佳さんここに住むのか?」
「あー……奈千佳どうすんだ?」
「すむー!」

 あっさり

「仮にも男所帯だぞ?そんな」
「ばーか」
「な、ば、は?」
「夜人。お前の性格上これが危ない目に会うことがあるとでも思ってるのか?」
「そ、そりゃ、ってそうでなくて!」

 万が一もあったら困んだよ。ターコ

「……だめー?」
「あ、う。はぅ」

 奈千佳はうさんくさい顔(人はそれを上目遣いと呼ぶ)で夜人を見上げる。

「あー。うー。だめじゃナイ。です。だぁ!柊!俺知らないからな!」
「おー俺もしらねー」

 こうして奇妙な生活は幕をあけたのだった。

 思えばこれは、もしかするとアイツにとってよくない事だったのかも知れない。
 例えば、始まるのが少し遅まっただけだとしても。




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