FIND OUT



 私が彼と出会ったのは、静かな喧噪の中だった。


  FIND OUT


 きんと耳元ですべての音が遠くなる。
 ああ、やばいと思った瞬間に視界が黒く浸食される。重力から解放されたような錯覚を覚え、しゃがみ込もうとした腕を誰かがつかんだ。
「大丈夫ですか? とにかくこっちへ」
 くらくらする視界のまま、どこかへ移される。
「ああ、それからこれもどうぞ」
 と、渡されたのはひんやりしたスポーツドリンク。
「……あーありがとうございます」
 うまく回らない舌で、とりあえずそれだけを言うと、いいですよ、と爽やかな声が返ってくる。


 茶色いくせっ毛が、光に透けてきれいだと思ったことを、よく覚えている。


「睡眠不足で、こんな日射しの中を歩くからですよ」
 爽やかな声が続ける。
 ああ、やっぱりこれは睡眠不足の貧血の熱射病か。不健康万歳。
「……て、なんで睡眠不足なんて確定的なんでしょうか?」
「あ、ウチ、あそこなんですよ」
 彼が指で示したのはすぐ目の前のビル。
 なるほど、だから私が一晩中ここでぼーっとしていたのを知っているんですね。
「こんなになるまで、何してたんですか、まったく」
 その呟きに問いただす色は含まれていなかったけれど、わたしは答えたくなった。


「ちょっと、愛人になろうと思って」


 私の声にぽかんとして、十秒くらい沈黙していた。
 いや、だからぶっちゃけ、私は自分大好きで、この先誰も好きになりそうにないし、なんだか人生に疲れちゃって、愛人だとそんなこと考えなくていいから楽かなーと思ってイイ男捜してたんだけど見つからないんだよーとまくし立てたら、さらに沈黙して、


「じゃあ、俺がなりましょうか」


 と、一言だけ言った。



 それが私と彼との愛人契約だった。





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