FIND OUT
何故かしらないけれど、奈千佳さんはたまにふらりと、それも月1くらいのペースでどこかに消える。柊に聞いても「愛人の事は深く突っ込むものではない」とか云々いって煙に捲かれてしまうし、本人は笑って柊に聞けというだけ。
オレにどうしろっていうんだよ。
今日の生存確認表によると奈千佳さんは逃亡。柊は遅くなるけど帰宅。志乃ちゃんは拉致。
……拉致ってなんだよ拉致って。
そんなこんなで夕飯も食べ終わって、風呂にも入って、クーラーの聞いた涼しい部屋で新刊を読んでいるときだった。
「夜人ーただいまー寝るー」
あ。甘えモードだ。
奈千佳さんがこの家に来てからは少なくなったが、柊はたまに、その、なんというか、甘えん坊になる。
基本的に柊は寝起きが悪く、眠いと不機嫌になるという要するに餓鬼。それでも一応仕事もやるし口調もはっきりしている。
「夜人。ねる、寝るの」
どうですか全国のお嬢さん。特に奈千佳さん。これが柊の本性です。
「だーっ!くっつくな、汗かいてんじゃねぇかよ」
「うー?」
「うーじゃない。風呂入れっ」
これで素面だってんだから驚きだよ。(遠い目)
オレの服の裾をひっぱりながらうだうだ言ってる柊を無理やり力技で風呂場に押し込む。高校時代から何度も付き合ってれば嫌でも慣れる。
たぶん、奈千佳さんはこういう柊を知らない。志乃ちゃんも知らない、と思う。
柊の部屋に無断で(ここまでくると無断もなにもないが)入り、Tシャツと黒ジャージの下を引っ張り出す。
ほっといたら裸で寝かねないのは見えているから。
「夜人ーでたー」
「はいはいはいはい服をきろぉっ!」
Tシャツを上からかぶせてフェイスタオルで未だ濡れたままの柊の髪を拭く。ちょっとは嫌がれ?ったく
「ほら、下。はくんだぞ?」
「やー。なんか飲むんだいっ」
やー。じゃねぇ。
柊はオレにジャージを押し付けるとキッチンへと消えていった。まあ、長めのTシャツをかぶせたから腹冷やす事はないだろう。
諦め気味に換気扇やらタオルやらの後始末を始めた。
ぱたぱたと歩き回る音がしてばたんとドアの閉まる音がした。
……あそこはオレの部屋じゃないか?
「柊ってめっまさかとは思うがオレの……」
いいかけて止める。
無駄な努力だなんてそんなことわかってるさ。
おとなしく柊の後片付けをして、玄関の鍵を確認し、電気を消して部屋に戻った。
「おい、柊はいるぞー?」
「……ぅー?」
一つだけ溜息をついてから部屋に入る。
古今東西自分の部屋に入るのに溜息付かされるのってオレだけなんじゃないだろうか。
部屋に入り後ろでにドアを閉める。もちろん視界の真中には幸せそうにオレの干したての布団に……わざわざ御丁寧にTシャツを脱いで丸まっていやがる。
「柊。なんでTシャツ脱いでんだよ」
「……夜人のお布団おひさまなの」
「確かに今日干したが」
「ふかふか」
「ふかふかだろうが」
なんでお前がそこに寝てるんだよ。先に。
「夜人。寝れ?」
「……この世に寝れという命令形が存在するのか?」
「………………ねよ?」
柊。声高い。高いから。あー可愛いぞこの馬鹿。…………違う。オレなんか間違ってる。
「あーもう。入るから、ほら端寄れ」
「ぐーむー」
貴様はどこの生命体だ。
「夜人」
「あ?」
「だっこ」
どこの誰が「だっこ」とか言って腕ひっつかむんだよ。そりゃ柊以外に居たら怖いけれども。
「Tシャツを着たらな」
唇を少し尖らせながら布団を抜け出て、Tシャツを着るとまた戻ってきた。
なんか猫みたいだな。
「ぎゅーしろ?」
「はいはいわーったから。寝ろ」
暫くオレの胸の前でもぞもぞと動いた後、柊は小さな寝息を立て始めた。
右腕は柊の体の下になり、左手はもてあまし気味に髪を梳くようにすると、寝息は規則正しくなっていった。