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「奈千佳ちゃん。というわけで奈千佳ちゃんがお着替えだよ」
「は?」

 皆様お久しぶり。志乃です。
 現在私は浴衣を着ています。季節はもう秋ですが。

「……えーっと。誰が何に?」
「奈千佳ちゃんが浴衣に」
「……誰が着せるのさ」
「柊くん」

 奈千佳ちゃんは若干の沈黙を持って不思議そうに(もしくは怪訝そうに)私の姿を見る。


 ことの始まりは2時間前。今日の夕飯を柊くんと買いに行っていた時の事だ。




「あー……」
「あー?」
「今年。浴衣着てない」
「あぁ」

 売れ残った花火を見て、私は唐突に浴衣が着たくなった。

「ねーぇー」

 なぜか柊くんも夜人くんも、私がこの声を出すとびくっとする。やだなぁ、そんな私意地悪な女じゃないのに。

「な、なんだ?」
「あのねー。浴衣着たい」
「……なんだ」

 一体柊くんは何を想像していたんだろう。肩を安心して下げる様子にちょっとむかついた。

「じゃあ、今夜はたこ焼きと焼きそばだな。花火もするか」

 どちらかというと、柊くんはお祭り好きだ。夜人くんが、あれ食べたいこれ食べたいと言うのを嬉しそうに笑いながら買い与えつつ私とヨーヨー釣りで勝負する。と言うのが去年までの状態。
 今年は奈千佳ちゃんが加わってもっとにぎやかに!と思ったのだけれど、私が張り切ってバイトを入れてしまったために行くことが出来なかったのだ。

 柊くんは、籠の中に入れたものを返しながら、ひょいひょいとお祭りで売っていそうなものを籠に入れていく。心なしか鼻歌まじりで、やっぱりこの人は可笑しいなぁと思いながら私は後をついて行った。

 柊くんが家でチョコバナナを仕込んでいる間に、私は大急ぎで家から浴衣を二枚柊くん家に運び込む。夜人くんは今日はバイトは早上がりなので、私たちが仕度を終える頃には帰ってくるだろう。

 そして、柊くんが私に浴衣を着付けし終えて自分のを着ている間に奈千佳ちゃんに今日のプチお祭りの話をしにきた今現在。
 すでに台所には鉄板やらなんやらと、色々準備してある。かき氷の機械も出してあるけど、柊くん。どこまでやるつもりなの?

「それでこんなキッチンが大変なコトになってるんだ……」
「いいんだよ。どうせ柊くんが片づけるんだから」

 奈千佳ちゃんはすごく苦みのある笑いで何度か頷くと、何かに納得してくれたみたいでそのまま柊くんの部屋へと消えていってしまった。

「ひぃー」

 かすかにそんな声が聞こえたから、私はリビングに鉄板を運んだりと仕度を始めた。
 先に浴衣着ちゃったのは失敗だったかな。なんてこと考えながらやっていたら、夜人くんが帰ってくる時間まであと少しになってしまった。

「志乃ちゃんただいまー」

 しっかり兵児帯をした浴衣姿の奈千佳ちゃんは可愛かった。私の見立てもなかなかなものね。感謝しなさい柊くん。愛人さんを彼女様が可愛くしてさしあげてよ☆


 がちゃり


 あ。夜人くん帰ってきた。

「おかえり夜人くん」
「あ、ただ………?!」
「おかえり(にっこり)」
「え、あ、奈千佳さんまで……今日は何」

 夜人くんパニックモードスイッチオンっ

 私と奈千佳ちゃんはにやりと笑って、背中をぐりぐりおして柊くんの部屋につっこんだ。

「うわっ!?え、あ、柊!てめなんて、は?俺はきな……だぁっ!」

 扉越しに聞こえてくる夜人くんの悲鳴を聞きながら二人で肩をすくめて準備の続きに取りかかる。ご飯を食べ終わったら花火をする予定らしいので、牛乳パックを開いて洗って水をためておくのだ。
 どうせしばらくは着るの着ないので口論になってるだろうから、手元はゆっくりになってしまう。出来ることならその面白い言い合いを拝みたいけど。

「ねー……志乃ちゃんっていつもひぃに着せて貰ってるの?」

 ぽつり、と。奈千佳ちゃんが聞いた。

「え?うん、気がついたらそうだった。柊くんのお母さんってね、昔柊くんのこと女装させてて、その時に覚えちゃったんだって」
「そうなの?」
「うん」

 なにかを思いついたみたい。
 奈千佳ちゃんは、時折なにか思いつくと、表情がすごく大人びる。
 すぐにもどってしまうのだけれど

「もういっこ聞いて良い?志乃ちゃんってひぃとか那波くんとキスしたりするの?」

 ぅ…………それを聞かれると痛いのに

「な……ぃ」
「……ひぃも?」
「うん」
「…………意外だ」
「たった一度だけ、ね。きっかけはあったんだよ」
「どんな?」
「二人きりになったとき、その、奈千佳ちゃんがくる少し前の時に………


   「ねぇ、こんなのつきあってるって言えるのかな」
   
    ほんの冗談のつもりで、私はとりとめとなく夜人くんに呟いた。
    この日は柊くんと夜人くんが入れ違いにバイトの日だった。

   「……どうだろう」

    苦笑混じりに空を見ながら夜人くんは言った。悔しいくらいにいい男だった。

   「つきあってるなんてどこからなんだろうね」
   「…………キスとか?」

    本当に思いつきだった。

   「キス。する?」

    淡くわらった夜人くんの顔が、優しすぎて怖かった。苦しいくらいに心臓が鳴った。


……でも、結局私は。しないって答えちゃった」
「ありゃ」

 きっともう二度と来ないだろう一瞬を、あのとき私は二つも無くしたのだ。

「この話にはね、続きがあって。そのあと入れ違いになった柊くんにも同じコト言ったの」

 奈千佳ちゃんは少し複雑そうな顔をして牛乳パックの中に手を突っ込んで黙って洗い続ける。

「そしたら、おかしいんだよ。同じようなこというの。同じような顔して」
「……あーわかるかも」
「でしょう?」

 でもきっと、夜人くんと柊くんの感覚は違う。
 夜人くんは私がしないっていうのを信じきってた。するっていったら、きっと困ってしまったと思う。
 柊くんは違う。私とのキスなんて別に何も変哲もないものだとわかりきっていた。噂になっていた今までの人たちと同じか、もしくはそれに妹みたいながついた感じ。軽いキスは挨拶だなんていってるけど、なんか、それも疑えなくなるような感じだった。

「このあいだね。ひぃにキスされてさ」
「…………え?」




「志乃。奈千佳。おまたせ」

 柊くんの疲れたような声が聞こえて、はっと我にかえされてしまう。

「二人ともやっぱ似合うね」
「やっぱとは何だ」

 奈千佳ちゃんはなんの変化もなしにすらりと溶け込む。うーん。ここらへんが大人だよなぁ。
 柊くんは、私をみて何か言いたそうだったけど、何も言わずににっこりとわらう。

「今年こそ逃れられると……」

 夜人くんはぽつりと呟く。無理だよ。柊くん夜人くんと遊ぶの好きだもん。正確には嫌がる夜人くんで笑顔かつ正当な理由をもって遊ぶのが好き。
 そして私はそれを見るのがもっと好き。

「夜人くん。志乃。夜人くんの浴衣好きだよ?」

 必殺志乃のおねだり(奈千佳ちゃん仕込み)に夜人くんは呻いてぶつくさいうと、ため息をついてしまった。なぜか柊くんはお腹を抱えて笑いをかみ殺してるけど。失敬な。

「ねーおなかすいたー」
「くっ……つくるぞ」

 口元緩みっぱなしの柊くん。うれしそうな奈千佳ちゃん。この二人がキスしてたら、それはもうメロドラマ級に絵になる気がする。タイトル『美少女とホスト』決定。

「おい柊!てめなに笑ってんだよ」

 うんうん。三角関係ってきっとこういう事をいうんだよね。

「ほら。夜人。はじめんぞ」

 柊くんの笑顔が少しだけ変わる。
 奈千佳ちゃんはちょっとだけ柊くんの側に行く。
 夜人くんはそれをみてちょっと目を細める。

 そして私は…………



































「「志乃」ちゃん」

 二人の知らない誰かをここに追加したくなる。




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