FIND OUT
血を吐くような思いでここまで来た。
「それ」と引き替えに出来るものなど、ない。
――大丈夫ですよ。
私は夕べ、吉田さんに言った言葉を思い出していた。
あれ以来、時折は吉田さんに連絡を取っている。生存報告というヤツだ。
――ねぇ、吉田さん。ただ生きるだけなら私にだって出来ますよ?
でも私は、この生き方を捨てない。これじゃないと私に生きてる意味などないんです。
私は弱いから。
こうして言葉にしないと覚悟も決められない弱虫だから。
――だからやめませんよ、私は。
にこやかに、そしてとてつもなく嬉しそうに志乃ちゃんがリビングに入ってくる。
「ただいまー!きいてー!パスタの麺が安かったのー!!」
そうか。パスタが安かったのか。
志乃ちゃんらしい理由に笑う。
私はというと、ひぃと出かけた先でうさぎのふかふかなぬいぐるみを手に入れたのでご機嫌だ。ひぃは呆れた顔をしたが、そんな表情には慣れっこなので別に何とも思わない。
しかし、パスタか。
ここから見える様子で判断するなら、普通の棒状のパスタだろう。
(確か鷹の爪もニンニクもあったよなあ)
……。
私が迷ったのは三秒だった。
お菓子を頬張ってる夜人くんと一瞬目が合って笑う。夜人くんが一瞬身構えたので、ウサギを押付けてあげた。
「クッキーこぼしたら怒るよー」
そう言い残していぢめておいて(案の定、うええ!?とかそういう感じのことをいいながら、慌ててクッキーを遠ざけた。面白いなあ)私はキッチンへ向かう。
「どうした?」
お茶を入れているひぃが私に気づく。志乃ちゃんも食材を冷蔵庫にしまいながら振り向く。
「あのさー、夕飯、私が作っていい?」
ものを聞くときに首を傾げてしまうのは私の癖だ。狙ってるのかと聞かれることもあるが、そういう場合もなきにしもあらずで、もう自分でも区別がつかない。まあ、そんなことはおいといて。
キッチンには見事な寒波が吹き荒れていた。
いやむしろ、ドラえもんのタンマウォッチかな。
凍り付けにされた時間を打ち破ったのは、ひぃだった。
「作るって……」
と呟いただけだったけど。
「ん、だから夕飯。パスタ。むしろペペロンチーノ。あ、にんにく駄目な人とかいる?」
「……いや、いない、けど」
「もしかして、今日の夕飯決まっちゃってたりしてた?」
「決まってもいないけど」
「ならいいでしょ?」
夕飯時の七時までもうあと一時間ぐらいしかない。あれなら早くできるという考えも、ちゃっかりある。
「……料理、できるのか?」
呆然としたままひぃが言った。
まあ、そう思われても仕方ないけどさあ。
「あのねー、一体何年一人暮らししてたと思ってるのさ?」
「…………何年なんだ?」
「十年」
あ、またタンマウォッチだ。すごいなーみんな、だるまさんころんだで余裕で勝てちゃうよー。
そしてやっぱり一番に回復したのはひぃだった。
「…………奈千佳、お前、何歳なんだ」
女に年は聞くなよー。
とか言ってもここでウケは見込めない。というか、これ以上は流石に可哀想になってきた。
「二十七。まあ、正確にはあと半年で十年なんだけどね」
ああ、でも今は一人暮らしじゃないからどうなのかな。
同居人はことごとく固まってくださった。うわーうわーおもしろーい。
「まあ、だから、今日の夕飯は心配しないでまかせなさいって」
ぺしぺしとひぃの肩を叩く。
でも一つ忘れちゃいけないのは。
ペペロンチーノってのは、手が込んでいるように見えて実は三十分で作れちゃうような料理だって事だ。
ハッハッハ。